入居者の事だけではなく職員の導線も考慮した介護施設
特別養護老人ホーム「いずみの郷」introduction
2001年、介護の現場ではユニットケアの手法が導入され、入居者が自宅に近い環境の施設で共同生活をしながら、一人ひとりの個性や生活リズムを大切にする暮らしが始まりました。小林理事長は、「個別ケア実践のために、よりよい施設をつくりたい」と考え、湧設計に仕事を依頼したと話します。
- CHAPTER 01
介護のカタチが変化する時、“ゆとり”を大切にした設計を
特別養護老人ホームが劇的に変わったのは、2000年に介護保険制度が導入されてから。介護の現場ではユニットケアの手法が取り入れられ、個別ケアを大切にするような施設が求められていました。
介護そのものが変化している中で新しく施設を建てようと決めた時、私が大切にしたのは、きちきちとするのではなく“遊び”、つまり“ゆとり”を持たせたいということでした。入浴施設にも個室にもゆとりを持たせることで、入居者がゆったりと、自宅の延長線として施設で生活できるようにしたい、と考えていたからです。
湧設計さんには、「いずみの郷」を建設する前にも、介護施設の設計を2ヶ所依頼していた経緯があって、比較的あ・うんの呼吸で進めることができていたのではないかと思っています。いろんな施設も一緒に見て、勉強しました(笑)。よりよいアイディアが浮かんだ時にはお互いに提案をしながら打合せを進めてることができたのも、信頼関係があったから。条件面で難しいこともあったのですが、柔軟に対応してくれてとてもありがたかったです。 - CHAPTER 02
「入所」ではなく「入居」 家庭の延長であることを大切に
介護の「ユニットケア」とは、家庭からの延長である、と考えています。施設に入ることは「入所」ではなく「入居」。あくまでも家庭、一般住宅の延長に「いずみの郷」があるということ。家族が、特別養護老人ホームに家族を入れていることを、周りの人に言い出せないケースもあったりしますので、胸を張って「いずみの郷に家族がいる」ということを言える施設にしたいと思っていたんです。
そこで湧設計さんに相談して、「和風」というコンセプトを設定しました。まずはお風呂。一般家庭のお風呂に近い環境を作り、一人ずつゆったりとお風呂に入ってもらうことを前提に、12室全て別デザインに設計してもらっています。そして、談話室や個室は、全て外または中庭の窓に面するようになっていて、景色や季節の移ろいを楽しむことができます。京都の地窓からヒントを得て窓をデザインしてもらったり、玄関の天井飾りには伊勢型紙の模様を使ったり、床のじゅうたんは反物が流れるイメージや石畳風にしたりするなど随所に工夫がされています。 - CHAPTER 03
建物に“ゆとり”を持たせることで、職員も働きやすく
入居者の皆さんがゆっくりと過ごせるように、と広さを十分に取って設計してもらいましたが、そのことによって職員も動きやすく、丁寧なケアができるようになったと思っています。「いずみの郷」は、1つのフロアに2ユニット(1ユニット=個室10室)あり、ユニットごとに職員を配置していますが、談話室を通して職員が往来できるように設計されているため、職員同士の協力体制が取れるようになっています。夜勤の際は1人の職員が2ユニットの見守りをしなければならないのですが、その際にも移動がスムーズにできるため助かっています。お風呂も十分な広さがあるため職員が動きやすく、そのことが丁寧なケアに繋がりました。
もう一つ例を挙げると、施設の通路はどうしても長くなりがちですが、入居者や職員が迷わないよう、通路に名前を付けたり、壁や案内板を色分けしたりすることで、自分の居場所がすぐわかるための工夫もしてもらっています。
導線がスムーズで、仕事がしやすいという声も聞かれ、空間的な余裕が、職員の心理面での余裕にもつながって本当によかったです。 - CHAPTER 04
自分の思い、願いをしっかりと設計者に伝えて
施設は50年使うことを想定し、設計を依頼しました。どのような事業もそうですが、施設を建てることも、人材を育成することもとても大切です。「今」をどう未来へと繋いでいくか、将来のことを見据えながら設計を依頼しようと考えた時、湧設計さんならそれに応えてもらえると思いました。いい施設を建ててもらうために、私自身もかなり勉強しています(笑)。仕事を依頼するなら、自ら学ぶ姿勢も大事にしてほしいですね。
使いやすさという機能性はもちろん、建物は見た目も重要。デザインもしっかりと生かすことを大事に設計してもらったことに感謝しています。
data物件データ
完成年月 | 2019年1月 |
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目的・用途 | 特別養護老人ホーム |
敷地面積 | 6,126㎡ |
構造・規模 | RC造・3階建て・6,450㎡ |